「天使の都(クルンテープ)」なんて綺麗な名前で、この街を分かった気になるな。太陽が沈み、湿った熱帯の夜風が吹き始めると、バンコクはその「魔都」としての本性を剥き出しにする。昼間の寺院巡りで心を洗ったつもりか?笑わせる。夜のバンコクが用意しているのは、そんな清らかな精神すら一瞬で泥沼に引きずり込む、甘美で強烈な「混沌(カオス)」だ。理性をホテルの部屋に置き去りにして、東南アジアで最も刺激的な夜の海へダイブしろ。
まずはBTS(スカイトレイン)に飛び乗り、欲望の交差点へ向かえ。ナナプラザ、ソイ・カウボーイ。この名前を聞いて血が騒がないなら、あんたはまだ「観光客」だ。一歩足を踏み入れれば、そこはSF映画『ブレードランナー』が現実になったかのようなサイバーパンクな異世界。視界をジャックする極彩色のネオンサイン、鼓膜を震わせる爆音、そして通りを埋め尽くす多国籍な群衆と呼び込みの熱気。ここでは羞恥心など邪魔なだけだ。ピンク色の光に染まった「大人の遊園地」で、世界中から集まった野良犬たちとグラスをぶつけ合い、理性のタガが外れる音を聞け。
歓楽街の熱気に脳が犯されたら、次は身体を揺らしに行こう。バンコク屈指のクラブ街RCA(Royal City Avenue)や、ハイソな若者が集うトンローエリアへ。ここでは毎晩がフェスティバルだ。巨大なサウンドシステムが吐き出す重低音が心臓を直接叩き、レーザービームが夜を切り裂く。言葉なんて通じなくていい。テキーラとEDMがあれば、目の前のタイ人や欧米人と一瞬でマイメンになれる。汗とアルコールにまみれて朝まで踊り狂う、その原始的な解放感こそがバンコク・ナイトの真髄だ。
だが、地上のカオスだけがバンコクではない。この街は「天空」にも逃げ場がある。地上60階、ルーフトップバーへ昇れ。さっきまでの喧騒が嘘のような静寂と風の中で、宝石をばら撒いたような360度の夜景を見下ろす。眼下に広がるのは、眠ることを知らない巨大都市の光の川。カオスを見下ろしながらカクテルを傾けるその瞬間、あんたは間違いなくこの街の「支配者」になったような錯覚に陥るはずだ。
極彩色のネオン街で溺れるもよし、爆音の中で自我を消滅させるもよし、天空から欲望の街を嗤うもよし。聖と俗、貧と富、光と闇が高速で回転し続けるバンコクの夜遊びは、一度味わえば二度と抜け出せない底なしの沼だ。トゥクトゥクの爆音に乗って夜風を切り裂き、この巨大な迷宮の奥底まで突き進め。バンコクは、あんたの欲望のすべてを受け止める準備ができている。